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放射線照射治療の最先端病院2016-02-29 11:53

湘南藤沢徳洲会病院 高精密度放射線治療センター 主任部長
永野尚登 先生
永野尚登(湘南藤沢徳洲会病院・放射線科主任部長) (1280x934)

湘南藤沢徳洲会病院では2012年、最新鋭の高精密度定位放射線治療統合システム「Novalis-Tx(ノバリスTx)」を導入し、より正確にがんの形状に合わせた放射線照射が可能となった。正常組織への影響を減らし、副作用の発生を抑えることができるIMRT(強度変調放射線治療)という技術を活用した最新の放射線治療に取り組んでいる。IMRTの進化版であるVMAT(強度変調回転照射)も積極的に取り入れ、より細やかな治療と治療時間短縮を可能にしている。

IMRT(VMAT含む)の実績は全国2位(『手術数でわかるいい病院』朝日新聞出版)である。「ノバリスTx」は全国でも30施設程度。また、より高度な治療計画を高速で作成することができる「レイステーション」というシステムも導入。ここまでシステムが整っている病院は全国でも数少ない。

高精密度放射線治療のエキスパートである永野先生は、「これからも定位的VMATなど高精度な医療に取り組み、患者の身体に負担が少なく効果的な治療を提供していきたい」と話す。

精度が高く患者に負担の少ない治療

●がん細胞を消滅させる

―― 先生のご専門のがん放射線治療というのは、そもそもどのような治療法で、どのようなメリットがあるのでしょうか?

永野 放射線治療では基本的にがん細胞に放射線を照射することになります。このとき、細胞が分裂してふえるときに必要なDNA(遺伝子)に傷がつくということです。正常細胞には修復能があって、がん細胞には修復能が欠けています。どこか壊れている細胞ですから、その差を利用して治療を目指そうというわけです。同じ放射線を当てても、がん細胞は死んで、正常細胞は回復するということです。

もちろん、できるだけ正常細胞に当てないようにするのだけれども、もし当たっても、修復できる範囲内だったら何とかできるということです。がん細胞に集中して、しかも部位を分割して照射していくということになります。

放射線治療のメリットは、低侵襲で外来治療が可能だということです。皆さん放射線というので、ビクビクして来られるわけですが、あまり楽なのでびっくりして、「ちゃんと当たっているんだろうか」って言われる(笑)。患者の皆さんは、手術、放射線、化学療法などすべて経験してこられるのですが、「再発したらまた放射線でお願いします」と言われます。

―― 先生の最先端放射線治療のエキスパートとしての治療法についてお教えいただけますか?

永野 私は1992年から横浜労災病院で、脳の定位放射線照射をやっておりました。定位放射線照射というのは、病巣に対して多方向から放射線を集中照射する方法で、大変強力で、すごく革命的な方法だとそのとき感じていました。4,000例ぐらい脳の治療をやってきましたが、これを体幹部にも早く使えればと考えていたのです。

その後、西東京徳洲会病院がIMRT(強度変調放射線治療)を始めるということで呼ばれました。IMRTでは色々な方向から腫瘍に放射線を当てるだけでなく、それぞれの放射線の量も変化させます。そして、2012年にこちらで最新鋭の高精密度放射線治療装置ノバリスTx(Novalis-Tx)を入れるということで来たのです。体幹部の定位照射を始めることができたのです。

ノバリスTxは、これまでの定位放射線治療装置よりも、より正確にがんの形に合わせた放射線の照射が可能です。余計な放射線をがん以外の部位に当てることを減らせ、正常組織を傷めずにすみます。強度変調放射線治療(IMRT)や強度変調回転照射治療(VMAT)が可能です。

――ノバリスTxを使ってIMRT、VMATなど最新の治療法があるのですね。

永野 IMRTでは、放射線が出る部分の形を段階的に変化させながら照射する治療法です。副作用が少なく患者の身体に負担の少ない治療法です。

VMAT(ブイマット)はIMRTをさらに進化させた治療法で、照射装置を回転させながら照射するので、きめ細かい治療が可能なうえに、短い時間で高い治療効果が得られます。患者の体動による影響が減るなどのメリットがありますね。例えば、今まで4回照射だったのが、安心して1回照射ですむようになりました。

その他に当院では、脳脊髄や小さな肺がんや肝臓がんに対して、立体的にとらえ、多方向から集中的に高線量を照射させるピンポイント照射(SRT)治療法を行っています。VMAT-SBRT(体幹部定位放射線治療)の誤差は1ミリオーダーです。呼吸に合わせて照射しますので、移動するがんに正確に照射することができます。

●患者一人ひとりに最適な治療計画を

―― 治療法以外で何か特長的なことはございますか?

永野 ノバリスTxには、精度の高い画像誘導システムを導入していて、赤外線マーカー、X線、CT画像などで三次元的に身体の位置を測定し、患者の自動位置決めができます。ですから、検査着を着たまま治療できます。

また、高精度の放射線治療を行う上で欠かせないのが治療計画です。そのためには腫瘍位置を正確に特定するための技術が必要であり、320列CT(コンピュータ断層撮影装置)などの画像を用い、専用のコンピュータにより照射方法や照射線量などの治療計画を作成しています。これまでは治療計画の作成には時間がかかっていました。

このため当院では、RayStation(レイステーション)という放射線量分布の計算装置を導入し、より高度な治療計画が作成できるようになりました。高速計算ができますので、今までは数時間かかっていたのが、数分で終わります。計算には遺伝的アルゴリズムを応用して、数学的に最適なプランを51通り同時に作成し、その中から臨床的に最適なプランを選択することで、患者一人ひとりに最適な治療計画が作成できます。計算時間が短くなるといろいろ工夫ができます。

以上のように、技術も必要ですがシステムとして整っていなければ精度は保てません。

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―― これまで中国人患者を診たことはございますか?

永野 先日、中国の方が救急で来られたとき、すごく目が活き活きしていて。何かニューヨークの記事では、中国人と日本人は一目でわかる。目が活き活きしているほうが中国人だと(笑)。

JTBの旅行で来られた方もいます。脳外科のほうで定位照射を、系列病院からの紹介で2名診ております。体幹部(首から下全部)なら私がやります。日本では体幹部で定位照射が一般に行われているのは肺と肝臓ですけれど、自由診療ならば他のがんもできるということです。受け入れは、通訳さえいらっしゃれば大丈夫です。

                    『人民日報海外版日本月刊』より転載