一般社団法人 日本国際医療協力センター

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<がん治療の世界的権威>命を救い続けてこそ医者、世界で初めて生体肝移植に成功2016-04-07 19:09

日本赤十字社医療センター院長
東京大学名誉教授
幕内 雅敏 先生

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肝臓外科医として40年余り、がん治療の世界的権威として知られる幕内雅敏先生は、日本で3例目の生体肝移植、この例は日本の最長生存例で現在も元気、また世界で初めての成人生体肝移植手術に成功している。以降、生体肝移植の症例数は500を超えている。
血管が入り組んでいる肝臓は極めて手術の難しい臓器である。東京大学医学部卒業後、手術の難しい肝臓外科の道を選び、創意工夫で独自の手術法を次々とあみだし、手術の成功率を上げている。そして、肝切除の術中に用いる超音波機械の導入、肝臓の系統的区域切除術の開発など、その業績は、国内外に知れわたっている。また、Best Doctorsにも選出されている。
幕内先生のもとを訪れる患者は、他の病院では手に負えない患者が多い。自分が最後の砦、「命を救い続けてこそ医者」を信念に、患者に向き合っている。2007年から、日本赤十字社医療センター院長に就任。院長を兼ねながら、外科医として今でも長時間にわたる手術をたんたんとこなす。
「365日24時間医者」をモットーに、「常に考えることは患者さんのこと」だと話す。

365日24時間――命を救ってこそ医者

●中国に多いのはB型肝炎

―― 中国との医学交流はいつごろからですか?

幕内 1985、6年ころかな。中国ではもう4、5カ所で肝臓の手術をしています。中国はB型肝炎がすごく多いんですね。B型肝炎はウィルスの量が多いので感染しやすいです。C型肝炎は少ないです。
中国には、天津に肝胆膵(肝臓・胆嚢・膵臓)だけで、3000床の病院があるといいますね。中国でも移植手術は行われており、手術数も多いのですがどうしてもクオリティが低くなり、手術成績が必ずしも良くない。日本だと65歳を上限としますが、中国では70歳です。患者さんの耐術能が低く、またすぐ白内障など、いろいろな症状があらわれてしまうのです。

―― 貴院は高度医療を提供する病院として有名です。特にがん診療に特化しているのでしょうか。貴院の特徴について教えてください。

幕内 各種のがんですね。臨床はがんが一番多い。それから有名なのは産科ですね。お産は去年3400くらいやっているので、日本でもナンバー3に入っていると思います。
私は1990年に44歳のときに、信州大学で移植手術を手がけ、そして、成人生体肝移植を世界で初めて成功させました。当院では2009年に始めました。今でも年間10人ぐらいやっています。
外国人患者の生体肝移植も希望者があればいつでもできます。外国人の患者さんでも、家族を連れてきて、適応があれば移植します。私が東大にいるとき、退院率が95%。日赤でも、年間の症例数が10ぐらいですが、やっぱり退院率は95%なんですね。対象ドナーがきちんといることが前提です。費用は成人で1300~3000万円くらいです。アメリカよりはるかに安いと思います。

●「世界の幕内」「独自の工夫」

―― 先生は「世界の幕内」と呼ばれ、手術も独自の工夫をされています。先生の術式をご説明いただけますか。

幕内 超音波の肝胆膵外科への応用があります。肝臓を血管の支配領域ごとに8つの区域あるいはそれ以下の領域に分け、最小限の部分だけを切除する超音波ガイド下の「系統的亜区域切除術」を開発しました。
一般に欧米ではそういう概念がないのですが、この肝臓だったらどのぐらい、何%ぐらいまでは肝臓を取っても生存できるかという細かい基準を私どもはきちんと作って、発表しています。ですから、安全度は非常に高いです。
移植だって、やっぱり一生懸命やって、患者を助けられないとがっかりします。心臓発作が起こるとか(事前にちゃんと心臓も調べますが)、あるいは脳出血を起こすとか、そういう稀なこともあります。しかし、そのまま死んじゃったという人はいない、助かっています。けれど、麻痺が残る可能性があります。
これらのことは非常に気を付けています。血圧を上げないように。手術中に急変があれば、どこに問題があったか考える。その死をどう防ぐか。そこに工夫が生まれます。
例えば肝切除では、一般の外科医は、速く出血をいかに少なく取るかという考え方をします。しかし、私の考え方は、ゆっくりと、肝がんが転移しやすい肝臓の中に――肝内転移といいますが、その部分を正確に取るということを重視します。
それで肝臓の表面から5~10ミリぐらいのところで細い肝静脈を出して、それを中枢に向かって追及するのです。アナトミカル・リセクション――解剖学的切除、あるいは系統的切除といっていますが、私の有名な仕事は系統的肝亜区域切除です。それで、肝臓の離断は、要するに一気呵成に腫瘍を取ってしまうというのが一般的なやり方です。
ちなみに私の論文で言いますと、一番引用されているのは、「Portal vein Embolizationポータル・ベイン・エンボライゼーション(門脈枝塞栓術)」です。これは世界的に有名です。肝切除、生体肝移植それから門脈、肝静脈、この4つについては世界一論文が多い。私は論文を書くことは、患者さんのために新しい知見を広めることになるので、医者としての責務だと考えています。

―― 現在、肝臓外科医と院長という激務をこなされています。

幕内 医者は、命を救ってこそ医者です。365日24時間医者という気持ちでやっています。私のところには、他では手に負えないという患者さんが来ることが多い。ですから、最後の砦というつもりで病気に向き合います。
 最近は、だんだん体力が落ちてきましたが、手術室に入ると自然に身体が動き、あとは祈るような気持ちで手術をしております。また、院長という立場になってからは、誰にでも堂々と言えることをするという当たり前のことが大事なんだと、つくづく感じています。

『人民日報海外版日本月刊』より転載